2003-05-18 ゴトウを待ちながら。

_ 夜更けにひとり、

真っ暗な部屋に帰ってきた。

遠方の友達と久しぶりに会って話し、今さっき車で家に着いたばかりだ。

午前4時、浅い眠りにつく。

_ いつもと同じ時間に

目が覚めて、体はダルく、頭は朦朧。

二度寝をしようと目を閉じて頑張るが、眠りにつくことができない。

カーテン越しの薄明かりの中で、醒めるでもなく眠るでもなく、

ただぼんやりと、佇んでいる。

_ 確か今日は

やらなきゃいけないことがあったはず。

夢うつつの意識の中で、思考が形にならない。

そうだ、今日はゴトウ(仮)君から電話が来るはずだった。

_ ゴトウ君と知り合ったのは

いったいいつのことのことだっけ。

どこかのバーでたまたま隣にすわって、どちらからともなく話を始めたんだ。

話の内容はほとんど覚えていないけれど、

ノリがあったというかウマがあったというか、

細く長い付き合いが続いている。

_ ずいぶんとゴトウ君とは

会っていないが、今日は彼から電話が来るはずだった。

なんだかそんな約束をしたような、そんな気がする。

_ けだるさのせいで

何をする気も起こらず、ごろごろと布団の中で過ごす。

閉めっぱなしのカーテンのために、部屋の中は薄明るい。

クリーム色の光に満ちた部屋で、

朝なのか昼なのか、夕方なのか夜なのかわからない時間が流れる。

_ そばに転がっている

本に手を伸ばす。

なだいなだの新しい本。

「神、この人間的なもの」。

無神論者の著者らしきBと、

友人でクリスチャンのTとの対話。

_ かつて

神の存在について熱い議論を交わした若き医学生の二人は、

ともに精神科医となる。

それぞれに仕事に追われているうちに、いつしか青臭い議論もしなくなった。

そして、二人は再会する。

50年の年月を経て、

人生の終わりを迎えて。

_ 「じつは

神様がいるかどうか分からない。

むしろ、いないんじゃないか、と思う気持ちのほうが強いな。」

数十年の信仰生活を過ごしたTが、さらりと言う。

神様はいるよ、

クリスチャンのTは当然そう言うと期待していたBは、

驚く。

_ とろとろと

浅い眠りに誘われる。

醒めているのか寝ているのか、

夢と現実の波打ち際を

くらげのようにゆらゆらと。

_ <お前はまだ、

神様なんてものを信じているのか?>

本の中のセリフが夢の中で聞こえてくる。

なだいなだ、ナーダ・イ・ナーダ、Nada y nada。

何にもない何にもない。

スペイン語だかラテン語だかで、nadaは無。

無と、無。

奇妙で美しい、ペンネーム。

眠りに落ちる寸前の、思考のきれっぱし。

_ グ、グウ。

空腹に目を醒ます。

どれだけ眠っただろうか。

外はまた真っ暗になっている。

ゴトウ君から、電話は来ない。

_ 食べるものもないし、

外に何か食べに行くか。

まだ体は起きておらず、頭には霧がかかっている。

もう少し、電話を待っていたほうがいいかなあ。

本の続きも気にはなる。

グ、グウ。

腹が鳴る。

_ まあいいや、

どうでもいい。

ゴトウ君から電話も来ないだろうし、

神様もいないだろう。

いや、電話は来るかも知れないし、

神様もいるかも知れない。

それでもやっぱり

ぼくの知ったことではない。

_ そう思って

家を出る。

外はすっかり日が暮れて、夜になっている。

薄暗い街灯だけが、細い裏道を照らす。

以前はこの街灯もまぶしいばかりに明るかった気がするが。

気づかぬうちにだいぶ暗くなったようだ。

まあ何でも寿命はあるし、街灯の蛍光灯も切れかかっているのだろう。

_ なんて思っているうちに

チカチカと街灯が点滅を始めた。

ふっと街灯が切れた。

あたりは真暗闇になった。

自分の足元さえも見えなくなってしまった。

目の前には暗黒だけが広がっている。

あるのはただ、無、ナーダ。

Nada、Nada。

_ 暗闇の中で

前にも後ろにも一歩も進めなくなる。

仕方なしにポケットをまさぐる。

タバコをくわえ、ライターで火をつける。

_ 赤い、

小さな小さな光が暗黒の中に生まれる。

充分な明るさとは言い難いが、まったく無いよりはるかにマシだ。

ぼくは自前の光を点しながら、

またひとりだけで、道を歩き続けることにした。

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_ Johnf667 (2014-08-19 10:56)

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