2003-06-04 The Little Light Of Mine.

_ 友人たちと

飲んでいたときのこと。

だいぶ飲んで腹も満ちて、さあそろそろ会計を、と思った矢先、

Kがおもむろに手を挙げて、店員を呼んだ。

「追加でピザをもう一枚、それからビールもおかわり」

Kの食欲にみなびっくりしてしまった。

_ きれいに

ピザを平らげて、さあそれでは、と一同が腰を上げかけたその瞬間、

Kがまたもや手を挙げて、店員を呼んだ。

「デザートにフルーツケーキをひとつ、それとコーヒーも」

まだ食う気か、ほんとによく食うねえとからかう皆に、

Kは重々しく、おごそかな調子で言った。

「おまえらね、

俺が好きでこんなに食べてると思ってるのか?」

_ いったい何を言い出すのかと

帰り支度をし始めた者も、その手を止めた。

Kが話を続ける。

「俺はね、

おまえらのためを思って、こんなに努力して食べてるんじゃないか。」

何?ぼくらのため?

_ 「ああもう、

お前らは何にもわかってないんだから困る。」

そう言うとKは運ばれてきたケーキを食べた。

「いいですか、今から君たちにもわかるよう、

ぼくがきっちり話してあげます。」

いきなり授業のような口調になり、Kは続けた。

_ 「いいですか君たち、

よーく聞きなさい。」

ケーキの残りをコーヒーで流し込み、Kが話す。

「今ニッポンは、ながーい不況の中にいます。

不況不況といわれて早10数年。

いったいその原因は何であるか。」

なんだかでかい話だな、おい。

_ 「それは、

未来への不安です。

未来への不安のせいで、皆がお金を使わない。

使わないで貯金に回してしまうのです。」

コーヒーをさらに一口。

_ 「つまり個人が

お金を使わない、ってことが問題なのです。

個人がお金を使わない、使わないから不況が続く、

不況が続くから未来が不安になって、ますますお金を使わなくなる。

こういうわけですな。」

はあ。

_ 「じゃあ

どうするのか、と。

文句ばかり言っていて、状況が変わるのか、と。

俺が言いたいのは、そこなんだな。

俺一人でもいい、俺がこの状況を変えてやる、と言いたい。

俺がピザを追加注文することで、日本の経済は変わるかも知れない。

いや、きっと変わるはずだ、先生はそう信じています。」

誰が先生だ。

_ 「だからね、

俺のデザート注文は、俺のためのものじゃない、

君ら一人一人の未来のためのものなんです。

俺が、君らのために、懸命に追加注文をしているのが、

わかってもらえただろうか。」

_ そうか、

そうだったのか。

居合わせた仲間たちは皆、Kの熱い思いをしっかりと受け止めた。

日本経済復興ののろしは、今ここから上がる。

それにしても、Kの心意気ときたらどうだろう。

壮にして烈、純にして真。

まさに、平成の世直し男、義士、誠の漢だ。

ぼくたちは、そんなすばらしい男を友として持てたことに

腹の底から感動し、一様に熱い涙を流した。

_ そうして

数ヶ月後、彼の想いに少しでも報いるべく、

ぼくも個人消費を行ってみた。

そういうわけで今、新しいパソコンでこれを書いている。

最新式のバイオ(正確にはヴァイオ)はなかなかに快適、

末端価格でグラム120円だった。

後は、ウォークマンなどに組み込まれ、保証期間を過ぎると自動的に作動し、

否応なく新製品を買わなければいけなくなる

伝説のソニータイマーが作動しないことを祈るのみだ。