微笑み、やんわりとした命令。
一度たりとも望んだことなどないのに、俺は突然、
偽善に満ちたこの世界に放り出された。
大人たちは俺に、自分のことは自分でやれと言い、
そのくせ一秒後には絶対の服従を求める。
純真で疑うことを知らない、ただ大人たちに言いなりになるだけの、
実在などするはずもない、理想の子供像。
それが俺達に割り振られた茶番劇の役回りだった。
喜劇なのか悲劇なのか。
最悪なのは誰もそれがただの劇に過ぎないことに気付いていないことだった。
もうすぐ来る、茶番劇のエンドマークを待ち望み、俺はひりひりと心を焦がした。
するような朝が来て、高い壁に切り取られた灰色の空の下、
いつもと変わらぬ一日が始まる。
一分でもいい、一秒でもいい、一刻も早く、おれは解放されたかった。
決められたレールの上を行く、気違いじみたラット・レース。
大人たちのルールの下、逃げ出すことも反抗することも不可能だった。
悲しいくらい無力な自分。
盗んだバイクで走り出す力も無く、
百円玉で買える温かさを手に入れるだけの金すら持っていなかった。
抗う術もなく、ただただ従うだけの日々。
級友たちは、何の疑問も持たず、教えられたことを覚え、屈託なく笑い、
保護されるために自由を売り渡していた。
そして奴らのその笑い声が、ますます俺を苛立たせる。
級友達が羊のような寝息を立てている2時の闇の中で、
俺はいつまでも寝付けずに心の牙を研いだ。
季節はめぐる。
もうすぐ、全てが終わる日だ。
級友達が教室の中で大人しく座っている。
俺はひとりぼっちで庭の隅の遊具に腰掛け、窓ガラス越しにその姿を眺めていた。
突然俺を呼ぶ怒鳴り声がする。
女のセンセイがこちらに向かって走ってくる。
「教室に戻りなさい。
どうしてみんなと同じように出来ないの。」
センセイに腕を引っ張られ、仕方なく教室へ向かう。
その日が来る。
3月になれば、俺はここから自由になれる。
だが俺には分かっていた。
ここから解放されても、新たな支配が始まるだけだ。
俺達を支配する相手が切り替わるだけで、何にも変わることはないのだ。
けれども俺はその日を心待ちにしていた。
俺に分かっていた、その日の意味。
教育者面した大人たちが俺達に押し付けた、
この支配からの
卒園。