午前0時を指した瞬間、ドーンと大きな音がして、
銅鑼の音が深夜の街に春の訪れを告げた。
暦が3月になった途端、水はぬるみ、山は笑う。
飲み屋にむかうぼくは急ぎ足で、夜空を見上げる。
故郷へ帰る渡り鳥たちが雲間に入っていくと、
風がきらりと光り輝いた。
頃から、頭を使うことが好きでね。
毎日空想の世界にふけっていました。
まわりの生徒とはなかなかうまくいかなくて、
よくトラブルを起こしては親を呼ばれたものです。」
たまたま隣りの席に座った男性が話を始めた。
歳の頃なら30代。
自分の世界に閉じこもることも多かったんで、
工作とかも好きでね、一人でいろいろつくったもんです。
プラモデルとかね。
そういうのも、今の仕事には影響してるかも知れません。」
そう語りながらピスタチオの殻をむいて、口に放り込んだ。
変えなきゃ、と思ってね。
高校に入ってからは一生懸命ほかの人に話し掛けるようにしました。
そうするうちに話をするのが好きになって、
とくに落ち込んだ人や、なにかに失望した人と話して、
ほんの一瞬でもその人が喜んでくれるのが嬉しかったんです。
自分にはその人の置かれた境遇を変える力は無くても、
自分と話したことでその人の気持ちが明るくなるのがほんとに嬉しくて。
たとえ一瞬だけだとしてもね、誰かに夢を与えるって、嬉しいもんなんですよ。」
そういうと彼は、ウイスキーグラスを傾け
にっこりと微笑んだ。
出てからは、小さな劇団に入って演技を学びました。
その劇団の演劇が特に好きだったわけじゃないんですが、
どこでもいいから演技を学びたかったんです。
何百人もの人を演じました。劇団は不人気でしたが、
ぼくは全然かまわなかった。
誰か別の人の人生を演じるのは楽しかったし、
そこでの勉強が自分の将来につながる確信があったからです。」
いくつか仕事をこなしまして。
今じゃ、うちらの業界ではちょっとしたもんなんですよ。
もちろん、TVや新聞にでるようなレベルじゃないけど。」
そういうと彼は、ウイスキーをおかわりした。
頑張れたのもね、高校時代の恩師のおかげです。
恩師がね、グレかかっていたぼくに向かってこう言ってくれたんです。
<誰にだって、必ずやりたいことが一つはあるはずだ。
まわりの人間が言うことなんて気にするな。
ありのままの自分を信じて、
自分のほんとうにやりたいことを必死でやれ。
どんなことだっていい、自分を信じて一生懸命努力することってのは
とても立派なことなんだ。>」
信じて、ここまで来られたんです。
恩師にそう言われた後、何日も何日も考え抜いて、やっと結論が出た。
あ、ぼくのやりたいことはこれだ、ってね。
それからはもう、夢のために日々努力しました。
劇団に入ったのも、夢の実現のためだったんです。」