右目のまぶたが小刻みに震えていた。
最近ストレスがたまり気味で、蓄積した負のエネルギーが
まぶたのけいれんとなって出てきたのであろう。
余程注意深く見なければ周囲からはわからないだろうが
なにしろ自分のまぶたなのでとても気になる。
隙を見せるとぴくぴくと、今も小さく震えている。
気が滅入ることばかり世の中で起こっているようだ。
新型肺炎は猛威を振るい、中国奥地から現れたウイルスは
カナダや南アフリカにまですごい勢いで広がった。
日に日に患者の数は増え、中国への留学生に帰国勧告が出る始末だ。
ジェット機に乗ってウイルスは拡散し、地球の裏側までも到達する。
不幸と苦痛のグローバル化。
復興の名の下に今日も利権争いが続く。
新生アフガニスタンの話もビンラディン捕獲の話も
ここのところ聞いたおぼえがないし、
争いのさなかに倒れた名もなき者を悼むヒマは
誰にもないらしい。
自由と民主主義と平和と混乱と無秩序とコカコーラを彼の地にもたらし、
連中は今日も行く。
白装束のおかしな奴らが道を占拠し、電磁波がどうのなんて言っている。
奇妙な理論を振りかざし、白い布で森を覆い、
ブルドーザーで報道陣を追い回す。
他者に心を開かず、自らを絶対と信じ、
自分たちが<敵の攻撃>から逃れるためには
平気で他人を踏みつけにする。
電磁波よりも恐ろしいものが、画面いっぱいに映る。
古いパニック映画がやっていた。
火星人だか巨大彗星だかが襲来して、世界に終末が訪れるらしい。
画面の中では人々が逃げ惑い、人類が滅びると大騒ぎする。
日常生活はストップし、暴動が起こり、パニックがパニックを呼ぶ。
映画はまだまだ続くようだったが、
真剣に観る気にもなれずにまたチャンネルを戻す。
増え続ける凶悪犯罪の特集が始まる。
ぼんやりとそれを見ながら、ぼくはさっきのB級パニック映画のことを思い出す。
世界が終わるって時に、映画みたいに人々がパニックになるなんてことがあるだろうか。
日常生活が手に付かなくなって、火星人や彗星のことばかり考え、
取り乱し、逃げ惑う。
そんなことはやっぱり絵空事に過ぎない。
ニュースは北の国の核を映す。
偉大なる指導者って奴が、自信満々で演説する。
謎の肺炎、新型兵器、白い集団......。
ああそうか、なるほどね、
そういうことなんだな。
突如ぼくは納得する。
楽しい終末をおすごしください。(^^;