2003-05-01 Softly As In A Morning Sunrise。

_ 驚くべきことに風は

すでに夏の香りをその裡に秘め、光の訪れは日に日に早くなっていく。

つい先日までコートの襟を立てて歩いていた道には

街路樹が緑の葉を茂らせる。

どこからか湿り気を帯びた暖かい土の匂いがわずかにして、

ぼくは初夏の喜びに身を震わせる。

_ 前夜に飲みすぎた

泡盛のせいで眠りは浅く、5時前に目を醒ます。

カーテンの隙間から人気のない街が太陽に照らされているのが見える。

多くの住人は未だ眠りの中にいて、街角を行く者はいない。

春の眠りにまどろむ世界の中で、自分だけがただ一人、初夏の気配に覚醒している。

鈍く重い、二日酔いの脳みそを抱えたままで。

_ うーむ。

あいたたた。

前夜の記憶は途切れ途切れで、なにやら非常に楽しかったことだけは覚えている。

自分のしでかしたツケは当然自分で払わなければならず、

つまるところそれはこの二日酔いである。

耳の穴から掃除機を突っ込んで、

頭の中のどんよりとしたもやもやを吸い取ってしまいたい。

体中全部ひっくり返して、水洗いしてしまいたい気分だ。

_ 体の芯に

渇を入れるために、熱く濃いコーヒーを入れる。

闇のように濃く、真夏の砂浜のように熱い。

うすぼんやりとした頭が瞬時にヒートアップするように、

カップ一杯のコーヒーをぐいと一息に飲み干す

と火傷してしまうので、たっぷりのミルクで割ってゆっくりと飲む。

猫舌なので……。

_ 次第に

目が覚めてきて、家の前の道を眺めてみる。

おろしたての五月がそこにあって、恐らくまだ誰もそれを汚していない。

四月の終わりから五月の半ばころまでは、一年で一番素晴らしい季節だ。

爽やかという言葉が陳腐に見えるほど爽やかで、

鮮やかという言葉が色褪せるほど鮮やかだ。

日差しは心地よく強くて暑く、今のところは真夏の凶暴さを隠している。

木陰に吹く風に涼を感じ、木々の緑に目を奪われる。

_ 全てを

良い方向に向かわせる力が物事の内面から生まれ

なにもかもがうまくいくような錯覚を

ほんの一瞬、得る。

そんな季節の到来をぼくは心より喜んで、

道行く猫の後ろ姿に

おはようと軽く挨拶をした。