すでに夏の香りをその裡に秘め、光の訪れは日に日に早くなっていく。
つい先日までコートの襟を立てて歩いていた道には
街路樹が緑の葉を茂らせる。
どこからか湿り気を帯びた暖かい土の匂いがわずかにして、
ぼくは初夏の喜びに身を震わせる。
泡盛のせいで眠りは浅く、5時前に目を醒ます。
カーテンの隙間から人気のない街が太陽に照らされているのが見える。
多くの住人は未だ眠りの中にいて、街角を行く者はいない。
春の眠りにまどろむ世界の中で、自分だけがただ一人、初夏の気配に覚醒している。
鈍く重い、二日酔いの脳みそを抱えたままで。
あいたたた。
前夜の記憶は途切れ途切れで、なにやら非常に楽しかったことだけは覚えている。
自分のしでかしたツケは当然自分で払わなければならず、
つまるところそれはこの二日酔いである。
耳の穴から掃除機を突っ込んで、
頭の中のどんよりとしたもやもやを吸い取ってしまいたい。
体中全部ひっくり返して、水洗いしてしまいたい気分だ。
渇を入れるために、熱く濃いコーヒーを入れる。
闇のように濃く、真夏の砂浜のように熱い。
うすぼんやりとした頭が瞬時にヒートアップするように、
カップ一杯のコーヒーをぐいと一息に飲み干す
と火傷してしまうので、たっぷりのミルクで割ってゆっくりと飲む。
猫舌なので……。
目が覚めてきて、家の前の道を眺めてみる。
おろしたての五月がそこにあって、恐らくまだ誰もそれを汚していない。
四月の終わりから五月の半ばころまでは、一年で一番素晴らしい季節だ。
爽やかという言葉が陳腐に見えるほど爽やかで、
鮮やかという言葉が色褪せるほど鮮やかだ。
日差しは心地よく強くて暑く、今のところは真夏の凶暴さを隠している。
木陰に吹く風に涼を感じ、木々の緑に目を奪われる。