ほかの人にわかるように話すのには非常にエネルギーが要る。
忠告や苦言、苦情の申し立てなど言いにくいことならなおさらで、
英語を母国語とした人を対象にして行われたある試算によると
喜びや感謝などのポジティブな感情の言語表現に比べ、
怒りや悲しみといったネガティブな感情を言語で表現するときには
約4.649倍のカロリーを消費するという。
同じ試算では
嘘や偽りなどを人が表現するときには通常の会話の約800倍のカロリーを消費する。
これは人間の体重を約200g減少する効果があるという。
実際にさっき日記を書き始めてから少しばかり痩せた気がすることを
控えめながら報告しておく。
明るい社会生活を送ろうとすると、自分の感情や考えをありのままに言うことが
時に困難であることを発見する。
社会通念として言うことを禁じられていたり、
タブー視されていたりする事柄があったりもする。
心に浮かんだことをそのままに表現すると、苦笑や冷笑を呼ぶこともある。
言ったら馬鹿にされるんじゃないかとか、
まわりのみんなから嫌われてしまうんじゃないかとか、
自分の心の中で不安ばかりを募らせる。
その結果あたりさわりのない表面的な、毒にも薬にもならない会話ばかりが日々生産され、
毎日の空白を埋めたあと、大気に拡散していくのである。
周囲からつまはじきにされることを恐れて、
今では誰も本当のことを言わなくなってしまった。
そして目の前に問題や危険が存在することを指摘することにさえおよび腰になり、
こうやってじわじわと世の中が崩れていく。
表に出ると、ある集団がいた。
集団は皆妙になよなよとした男性で、同じ服を着てうねうねと体を動かしている。
異様な光景に思わずぼくは尋ねた。
あなたがたはいったい何者なのだと。
集団の一人が不気味な裏声で答える。
「あたしたち、カマウエーブ研究所でーす。よろしくねン」
足早にその場を立ち去った。
道の角を曲がった途端、思わずその場に立ち尽くしてしまった。
さっきの集団とまったく同じ格好をした人たちが、
一心不乱に道端で作業をしている。
歩道の脇の街路樹のわきに何かの苗をさしている。
異様な光景に思わずぼくは尋ねた。
あなたがたはいったい何者なのだと。
集団の一人が明るい声で答える。
「わたしたち、花植え〜部です。よろしくね」