喉がいたい。
具合が悪く顔色が青白いので、周囲からは
「病みのパープル・アイ」とか呼ばれている。
そうかと思うと体がぼろぼろなので「病み・ボロ」とか、
何度も何度も風邪ひいているので「風邪のまた三郎」とか。
とかく世間というものは病人に冷たいものだ。
友にするのに悪き者、病なく身強きもの、
と相場が決まっている。
自分が体が丈夫な人というのは、自分が病気になったことがないものだから
他人の苦しみに無頓着である。
「ああそう、風邪ひいたんだ、大変だねー」くらい言えれば上出来で
「たるんでるんじゃないの」「気合が足りない」
などなどと訳のわからない説教を垂れてくるのが普通。
健全な肉体に健全な魂が宿る、
というのが如何に大嘘であるかががよくわかる。
喉が痛い。
ぼくは元々無口なほうだからいいが、
歌ったりしゃべったりするのが仕事の人は
風邪などひいたらつらいだろうなあ。
そんなことを考えながら、
上沼恵美子のように黙って
物静かに仕事を続ける。
などともいい、自分が病気の人というのは
相手の痛みもよくわかるものである。
お互いに病気のつらさがわかるので、相手に優しくなれるのだろう。
ということは、風邪をひいた人たちが集まった場というのは
ものすごく心温まる雰囲気なのではないだろうか。
風邪ひきだらけの居酒屋飲み会とか。
つらそうだけれど大丈夫ですか?」
「あなたこそ、体だるそうですよ。」
「わたしは大丈夫だから、あなた少し休んでいたらどう?」
「すみませんねえ、わたしの風邪薬、お分けしますよ。これ、効くんですよ。」
「どうもどうも、じゃあお礼にわたしの解熱剤を。」
「ああ、どもども。あ、なにか追加注文します?」
「じゃあ、このスタミナレバー炒めを一つ。体力つけないといけませんからな。」
「それ注文しましょう。すいませーん、スタミナレバー炒め一つ、追加。
それと、うがい薬ピッチャーで。」
ああ、なんと心温まる光景だろうか。
ていうか鼻水出てるよ。
風邪ひいた今、
ぼくはとても心優しく、思いやりにあふれ
他人の痛みや苦しみに無限の理解を示す、菩薩の心境だ。
言うなれば、マザーテレサかガンジーか、
まさに現代の聖者と言えよう。
こんなぼくは、友とするのに最適な男である。
嘘だと思うなら是非遊びに来るといい、
心よりお待ち申し上げる。
風邪はうつせば治るって言うし。