飲んでいたときのこと。
だいぶ飲んで腹も満ちて、さあそろそろ会計を、と思った矢先、
Kがおもむろに手を挙げて、店員を呼んだ。
「追加でピザをもう一枚、それからビールもおかわり」
Kの食欲にみなびっくりしてしまった。
ピザを平らげて、さあそれでは、と一同が腰を上げかけたその瞬間、
Kがまたもや手を挙げて、店員を呼んだ。
「デザートにフルーツケーキをひとつ、それとコーヒーも」
まだ食う気か、ほんとによく食うねえとからかう皆に、
Kは重々しく、おごそかな調子で言った。
「おまえらね、
俺が好きでこんなに食べてると思ってるのか?」
お前らは何にもわかってないんだから困る。」
そう言うとKは運ばれてきたケーキを食べた。
「いいですか、今から君たちにもわかるよう、
ぼくがきっちり話してあげます。」
いきなり授業のような口調になり、Kは続けた。
よーく聞きなさい。」
ケーキの残りをコーヒーで流し込み、Kが話す。
「今ニッポンは、ながーい不況の中にいます。
不況不況といわれて早10数年。
いったいその原因は何であるか。」
なんだかでかい話だな、おい。
お金を使わない、ってことが問題なのです。
個人がお金を使わない、使わないから不況が続く、
不況が続くから未来が不安になって、ますますお金を使わなくなる。
こういうわけですな。」
はあ。
どうするのか、と。
文句ばかり言っていて、状況が変わるのか、と。
俺が言いたいのは、そこなんだな。
俺一人でもいい、俺がこの状況を変えてやる、と言いたい。
俺がピザを追加注文することで、日本の経済は変わるかも知れない。
いや、きっと変わるはずだ、先生はそう信じています。」
誰が先生だ。
そうだったのか。
居合わせた仲間たちは皆、Kの熱い思いをしっかりと受け止めた。
日本経済復興ののろしは、今ここから上がる。
それにしても、Kの心意気ときたらどうだろう。
壮にして烈、純にして真。
まさに、平成の世直し男、義士、誠の漢だ。
ぼくたちは、そんなすばらしい男を友として持てたことに
腹の底から感動し、一様に熱い涙を流した。
数ヶ月後、彼の想いに少しでも報いるべく、
ぼくも個人消費を行ってみた。
そういうわけで今、新しいパソコンでこれを書いている。
最新式のバイオ(正確にはヴァイオ)はなかなかに快適、
末端価格でグラム120円だった。
後は、ウォークマンなどに組み込まれ、保証期間を過ぎると自動的に作動し、
否応なく新製品を買わなければいけなくなる
伝説のソニータイマーが作動しないことを祈るのみだ。